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浦和地方裁判所 昭和45年(行ウ)5号 判決

埼玉県越谷市恩間一一七七番地

原告

野村政吉

右訴訟代理人弁護人

高山征治郎

正田茂雄

丸山輝久

右訴訟復代理人弁護士

松本昌道

埼玉県春日部市大字粕壁字浜川戸五四三五番地の一

被告

春日部税務署長

小沢邦孝

右指定代理人検事

岩渕正紀

法務事務官 室岡克忠

同 阿南一徳

同 六馬二郎

同 市川溥

国税訟務官 植竹徳次郎

大蔵事務官 上条晃一

同 青木菊次

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

1. 被告が原告に対し昭和四四年一月二八日付でなした

(一)  昭和三八年分所得税の決定ならびに無申告加算税の賦課決定

(二)  昭和三九年分所得税の決定中税額一五九万〇、八〇〇円を超える部分ならびに無申告加算税の賦課決定

(三)  昭和四〇年分所得税の決定中税額一二万三、〇〇〇円を超える部分ならびに無申告加算税の賦課決定を取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、原告主張の請求原因

1.(1) 被告は原告に対し昭和四四年一月二八日

(一)  昭和三八年分所得税について別紙第一(イ)記載のとおり

本税 一、五一五、二〇〇円

申告加算税 一五一、五〇〇円

(二)  昭和三九年分所得税について別紙第二(イ)記載のとおり

本税 五、〇五七、五〇〇円

無申告加算税 一五一、二〇〇円

重加算税 一、二四〇、七〇〇円

(三)  昭和四〇年分所得税について別紙第三(イ)記載のとおり

本税 二、一五二、八〇〇円

無申告加算税 一六〇、一〇〇円

重加算税 一九二、五〇〇円

を賦課する旨決定し右決定はいずれも昭和四四年二月一日原告に送達された。

(2) 原告は右決定に不服があつたので昭和四四年二月一七日被告に対し右決定全部の取消を求める旨の異議申立をした。右異議申立に対し被告は三ケ月内に異議に対する決定をしなかつたので、その当時の国税通則法第八〇条の規定にもとづき、同年五月一八日審査請求がなされたものとみなされ、これに対し関東信越国税局長は昭和四五年一月一九日

(一)  昭和三八年分所得税について審査請求を全部棄却し、別紙第一(ロ)記載のとおり

本税 一、五一五、二〇〇円

無申告加算税 一五一、五〇〇円

(二)  昭和三九年分所得税について前記決定の一部及び重加算税賦課決定の全部を取消し、無申告加算税賦課決定に対する審査請求を棄却して別紙第二(ロ)記載のとおり

本税 三、八四六、八〇〇円

無申告加算税 一五一、二〇〇円

(三)  昭和四〇年分所得税について昭和三九年分と同様前記決定の一部及び重加算税賦課決定の全部を取消し、無申告加算税賦課決定に対する審査請求を棄却して、別紙第三(ロ)記載のとおり

本税 二、〇七一、九〇〇円

無申告加算税 一六〇、一〇〇円

と裁決し、右裁決は昭和四五年二月二日原告に送達された。

(3) 右裁決は別紙第一ないし第三の各(ロ)記載のとおり、原告には

(一)  昭和三八年分

給与所得 九四、一二五円

雑所得 四、六二四、四六二円

(二)  昭和三九年分

給与所得 八八、一九二円

譲渡所得 四、八〇八、三三〇円

雑所得 四、六三四、一二一円

(三)  昭和四〇年分

譲渡所得 一、〇四五、三〇五円

雑所得 五、〇三一、五四六円

の各所得があつたものとしてなされたものである。

2. しかしながら、右雑所得についての各課税処分はいずれも次のような違法があるので取消されるべきものである。

(1) すなわち、被告が課税した原告の雑所得とは、原告の訴外関東自動車株式会社(以下訴外会社という)に対する貸付金についての利息金債権であるが、その内容は次のとおりである。

(2) 原告は昭和二五年四月頃以降右訴外会社に対し必要の都度利息日歩四銭の約で金員の貸付をしてきており、昭和三七年一一月一九日当時約三〇〇〇万円の貸金債権を有していた。

(3) ところで被告及び関東信越国税局長は、右利息がいずれも訴外会社の各事業年度、すなわち原告に対する課税年分に相応する各事業年度の決算報告書に未払費用として損金に計上されていたところから、原告についても右各年分の利息が収入すべき権利として確定しているものと判断し、この判断に基いて各年分の雑所得が存したものとして課税処分をしたものである。

(4) しかしながら、原告と訴外会社との間の消費貸借契約においては、前述のとおり日歩四銭の利息の定めは存したが、元本の弁済期も利息の支払期もなんらその定めがなかつたし、原告は訴外会社から利息の支払いを全く受けていない。

(5) したがつて、原告の訴外会社に対する前記貸付金についての利息金債権は課税にかかる各年にその収入すべき権利が確定していなかつたものであり、被告の前記各決定中原告に雑所得ありとして課税した部分および無申告加算税の賦課決定は違法である。

二、被告の答弁

1. 請求原因1の各事実は認める。

2. 同2の(1)ないし(3)の各事実は認める。ただし、(2)の事実のうち原告が訴外会社に対し有していた貸金債権額は昭和三八年一二月三一日現在において三一六七万四四一九円である。

3. 同2の(4)の事実のうち、原告が訴外会社から利息の支払を受けていないとの事実は不知、その余の事実は認める。

4. 同2の冒頭の主張及び(5)の主張は争う。

三、被告の主張

1. 本件課税処分の経緯

被告が原告に対してなした本件課税処分の経緯は次のとおりである。

(一)  昭和三八年分

(1) 総所得金額 四、七一八、五八七円

(内訳)

給与所得 九四、一二五円

雑所得 四、六二四、四六二円

(2) 給与所得 九四、一二五円

原告が訴外愛国工業株式会社より給与として受領した金額である。

(3) 雑所得 四、六二四、四六二円

原告は昭和三二年二月六日訴外関東自動車株式会社を設立しその取締役に就任したが、間もなく右訴外会社は資金に窮したので原告はその所有の不動産を売却して得た六五〇〇万円を訴外会社に貸付けた。その後原告は昭和三七年末頃(登記上は同三八年二月二五日)訴外会社の取締役を辞任したが当時訴外会社に対する右貸付金の残額は三一六七万四四一九円であり、これについては訴外会社との間に日歩四銭の利息を付する約定がなされた。

よつて昭和三八年分における訴外会社より原告に対し支払うべき利息金は次のとおりとなり、被告はこれを雑所得と認定したものである。

31,674,400×0.0004×365=4,624,462円

(二)  昭和三九年分

(1) 総所得金額 九、五三〇、六四三円

(内訳)

給与所得 八八、一九二円

譲渡所得 四、八〇八、三三〇円

雑所得 四、六三四、一二一円

(2) 給与所得 八八、一九二円

原告が訴外愛国工業株式会社より給与として受領した金額である。

(3) 譲渡所得 四、八〇八、三三〇円

原告がその所有の東京都足立区綾瀬町五ノ二〇土地九一坪外を他に譲渡したことによる所得である。

(4) 雑所得 四、六三四、一二一円

原告の訴外会社に対する(イ)前記貸付金三一六七万四四一九円に対する日歩四銭の割合による昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの利息金、(ロ)貸付金一〇万円に対する日歩四銭の割合による同年七月三〇日から同年一二月三一日までの利息金、(ハ)貸付金四万三一二〇円に対する日歩四銭の割合による同年一〇月二〇日から同年一二月三一日までの利息金及び(ニ)貸付金一〇万円に対する日歩四銭の割合による同年一一月七日から同年一二月三一日までの利息金の合計額であつて、次の計算によつたものであり、被告はこれを雑所得と認定した。

31,674,400円×0.0004×365=4,624,462円

100.000円×0.0004×155=6,200円

43,120円×0.0004×73=1,259円

100,000円×0.0004×5=2,200円

(三)  昭和四〇年分

(1) 総所得金額 六、〇七六、八五一円

(内訳)

譲渡所得 一、〇四五、三〇五円

雑所得 五、〇三一、五四六円

(2) 譲渡所得 一、〇四五、三〇五円

原告がその所有の東京都足立区綾瀬町五ノ二〇土地四四・八七坪他を他に譲渡したことによる所得である。

(3) 雑所得 五、〇三一、五四六円

原告の訴外会社に対する(イ)貸付金三四六七万四四一九円に対する日歩四銭の割合による昭和四〇年一月一日から同年一一月三日までの利息金及び(ロ)貸付金三三三四万一七六八円に対する日歩四銭の割合による同年一一月四日から同年一二月三一日までの利息金の合計金額であつて、次の計算によつたものであり被告はこれを雑所得と認定したものである。

34,674,419円×0.0004×307=4,258,018円

33,341,768円×0.0004×58=773,528円

2. 雑所得の計算について

被告が原告の雑所得について昭和三八年分は四、六二四、四六二円、昭和三九年分は四、六三四、一二一円、昭和四〇年分は五、〇三一、四五六円と認定したのはいずれも訴外関東自動車株式会社の決算報告書及び会計帳簿によつたものである。そして右決算報告書及び会計帳簿によれば各年分の原告に対する借入金利息に関する記載は別表第四のとおりである。

3. 本件課税理由について

(一)  本件利息債権の確定時期について

旧所得税法(昭和四〇年三月三一日改正前のもの)第一〇条第一項は「第九条第一号、第二号、第五号及び第六号に規定する収入金額は、その収入すべき金額により、同条第三号、第四号及び第七号乃至第一〇号に規定する総収入金額は、その収入すべき金額の合計金額による。」と規定し、現行所得税法第三六条第一項は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と規定しているが、右の「収入すべき金額」とは法律上収入する権利の確定した金額を意味するものである。(最高裁第二小法廷昭和四〇年九月八日決定・刑集一九巻六号六三〇頁。最高裁昭和四〇年九月二四日第二小法廷判決・民集一九巻六号一六八八頁。山田二郎著税務訴訟の理論と実際三五頁等参照)。

右の税法上収益を計上する時期の基準としてのいわゆる権利確定主義は、現実の収入にかかわりなく収入すべき権利の確定した時に収入の発生を認識すべきであるというものである。これは、税法が期間を区切り、期間ごとに課税所得を計算して課税することにしている(いわゆる期間損益計算)ため、ある所得がどの年度に帰属するものであるかを決めなければならないわけであるが、この点について税法が「収入すべき金額」と規定していわゆる現金主義を排し、収益の原因たる権利の確定したときに所得の発生を認識することとしたのは、収益の原因たる権利の確定したときには、原則として権利者においてその収益を支配することが可能となつたものと考えられるし、また課税所得の計算上できるだけ明確な基準によることが恣意的な処理を排除するのに適切だからである。

従つて、本件貸付金にかかる利息債権についても、所得税法上は現実に弁済を受けたかどうかにかかわらず、当該年分に対応して発生する利息債権はすべてその年分の所得となるものである。けだし、本件利息債権については弁済期の定めがない(元本債権についても債務の弁済期の定めがない)が、弁済期の定めのない債権については債権発生と同時に弁済期が到来するもので、債権者は爾後何時でも履行の請求ができるのが原則であることは、判例学説が一致して認めているところであるから、右利息債権は本件貸付金成立と同時に原告の支配下に入り、本件各係争年分に対応する分については、本件賦課決定において各認定した額相当がそれぞれ各年分の「収入すべき金額」として課税の対象となることは疑いを容れないところである。

(二)  税務の実際の取扱い―国税庁長官通達―という観点からみた本件貸付金利息の収益計上時期について所得税法上貸付金の利息収入は、その貸付が事業としてなされる場合は事業所得の総収入金額となり、その貸付が事業とするに至らないいわゆる非営業貸金の貸付である場合には雑所得の総収入金額となる。

ところで、右の貸付金の利息収入の収入すべき時期についての国税庁長官通達の内容を要約すれば、次のとおりである。

すなわち、事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、金銭の貸付による利息でその年に対応するものにかかる収入金額についてはその年の末日(貸付期間の満了する年にあつては当該期間の終了する日)とし、その者が継続して記帳している場合に限り一定の要件のもとに例外を認めている(所得税基本通達三六―八(7))。また、雑所得にかかる総収入金額の収入すべき時期は、その所得の性質からその収入の態様に応じ、他の所得の収入金額または総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準ずるとしている(同通達三六―一四)。

右のように貸付金利息にかかる事業所得の総収入金額の収入すべき時期について例外が設けられたゆえんは一般に金銭貸付業の場合にあつては、〈1〉貸付口数がきわめて多いこと、〈2〉利息収入の記帳が業者により独自の方法が採用されていること等から、年末の決算において原則どおり期間に対応して収入金額を計上するためには、ほとんどすべての貸付金について個々に期間に対応する収入すべき未収利息の計算を行わなければならなくなり、きわめて煩雑であるためである。そこで、このような者が継続して記帳している場合に限り、簡素化の見地等から例外を認めているのである。

これに反して、その貸付金がいわゆる非営業貸金で雑所得となる利息収入については本来いわゆる非営業貸金は継続性がないものであるから、事業所得の場合のように例外的取扱いを認める必要はないので、税務実務上、雑所得の収入すべき時期についての前記の通達に基づいて原則どおり期間に対応して収入金額に計上すべきものとして取扱われているのである。

四、被告の主張に対する原告の反論および主張

1. 本件消費貸借のように利息の定めはあるが利息の支払期については定めがない場合、被告の主張するように発生主義を純粋に貫くと、本件のような未収収益については、現実には収入のないところに課税を許すことになり、後において現実に回収不可能が確定した場合には、結局「所得なくして課税される」という不公正な結果を招くことになりかねない。しかも、被告の主張するところは企業会計原則上の取扱いに反し、また、従来の税務当局における実際的運用にも反する。

2. そこでまず本件決定処分の対象となつた各年度当時において、未収収益が企業会計原則上どの様に取扱われていたかについて述べる。

一般に、税法上の収入すべき金額、必要経費、益金、損金の計上は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によることとされている。そして、右基準は一般的には「企業会計原則」を指すことは公知の事実である。

本件紛争年度当時における企業会計原則(損益計算書原則一のA)は

「一、すべての費用及び収益はその支出及び収入に基いて計上し、この発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。

二、前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し未払費用は当期の損益計算に計上しなければならない。

三、未収収益はこれを貸借対照表資産の部に記載したときは当時の損益計算に計上する」

と述べている。

右企業会計原則は保守主義の立場から、費用については、発生主義に基づき、期間経過にともなつて必ず未払費用を計上しなければならないとして、義務的文言を使用しているのに対し、収益については、原則として未収収益は期間経過にともなつて計上する必要はなく、但し計上する場合には貸借対照表の資産の部に計上し、且つ損益計算書の発生収益に計上してもよいとして、許容的文言になつているのである。

以上を訴外会社と原告間の本件消費貸借にあてはめれば、訴外会社の立場では営業外費用として未払利息を計上することは正しい会計処理がなされたことになるが、一方原告としては未収の利息を収益として計上する(計上するという言葉を仮に使用するが、原告は金融業等を営んでいるわけではなく、帳簿がないので、「計上」といつても税務申告をするという意味以外にはない)会計処理上の義務はないのであり、実際昭和三五年の本件消費貸借成立年度から一切利息を計上しなかつたのは正しいのである。

3. 次に本件のような貸付金利息の収入計上の時期についての課税上の取扱について述べる。

法人税法上では

(A)  金融機関の貸付金および有価証券の未収利息についてはその事業年度にかかる額は益金の額に算入するが(個別通達昭和四一年直審(法)七二)、

(B)  質屋営業における貸付金の利息は流質期限までに支払を受けないものは未収利息として計上することを要しない(基本通達二―四―一)。

また所得税法上も

(A)  事業所得における利子収入は、経過した期間に応じて発生し、かつ実現するという考え方で、たとえば金銭の貸付による利息又は手形の割引料で、その年に対応するものにかかる収入金額については、その年の末日に収入があつたものとする。但しその者が継続して次に掲げる区別に応じ、それぞれ次に掲げる日により収入金額に計上している場合には、それぞれ次に掲げる日に収入があつたものとする。

(1) 利息を天引きして貸し付けたものにかかる利息

その契約に定められている貸付元本の返済日

(2) その他の利息

その貸付けにかかる契約の内容に応じ三六―五の(1)に掲げる日

(基本通達三六―八(7))

(注)基本通達三六―五の(1)は不動産所得について契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があつたときに支払うべきものとされているものについては請求の日)と定めている。

(3) 手形の割引料

その手形の満期日(基本通達三六―八(7))

(B)  利子所得については利子の発生源に応じ、利子又は収益の支払期(弁済期到来主義)、但し無記名の公社債等は支払を受けた日(基本通達三六―二)

(C)  雑所得については、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱に準ずる(基本通達三六―一四)

としているのである。

以上のことを要約すれば、収入の計上時期については、法人税法上は、金融機関等の大企業には発生主義的取扱をし、小企業には実現主義的取扱いをしており、また、所得税法上は、事業としての金銭貸付は発生主義的取扱をし、他の場合は実現主義的取扱をしているといつてよい。

しかるに、被告は右各通達を無視ないしは軽視してまで発生主義をかたくなに貫く主張をしつづけているのである。

4. 更に詳論すれば、

本件の如き非営業貸金の利息収入が雑所得とされること自体は原告は異論はない。

雑所得は所得税法上種類別に積極的に定義された各種所得以外の包括的なまた不確定的な概念の所得であるから、その課税標準たる雑所得金額は総収入金額から必要経費を差引いて雑所得金額を算出すると規定している(法三五条、旧法九条一項一〇号)ものの、他の各種所得のように総収入金額と必要経費の双方とも類型的予想に親しまないものである。従つて、その収入計上時期についても、所得税基本通達三六―一四は「雑所得の総収入金額の収入すべき時期はこの収入の態様に応じ、他の所得の収入金額または総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準ずる」と規定し、特に旧通達二〇四は「雑所得については権利の確定する時期はその所得の内容に応じて一九五(利子所得)から二〇三(一時所得)までに準じそれぞれその収入すべき権利が確定する時による」と規定しており、雑所得そのものが不確定概念であること、雑所得とされるものも利子所得からはじまつて一時所得に至る雑所得以外の他のすべての所得に性質内容がそれぞれ類似しているものがあることを、通達自体においてあらかじめ予定しているのである。

しからば、本件のような非営業上の貸金の受取利息の収入時期については、如何なる所得の定めに準じたらよいかについて以下のべる。

(一) 非営業貸金の利息収入について、その所得源泉の性質内容を他の定型的な所得のそれと比較してみるに、まず利子所得はおおむね消費寄託契約にもとづくものであり、本件の如き消費貸借契約にもとづくものと法律形式のうえで相違があるものの、いずれも資本利子の性質をもつもので、極めて類似するものである。

次に配当所得とは資本利子所得であることは共通であるが、配当所得は企業利益の分配であるという点で異なるし、給与、退職所得とは全く性質を異にすることは一見明白であり、更に譲渡所得、山林所得とも、一方は資本利子であるのに対し他は資産の譲渡たる対価による所得であつて明白に性格を異にし、また一時所得は一般的には非営利、非継続の一時的性質の所得で且つ労務、役務の提供にもとづかないものと解されており、これまた異なつたものと解される。

次に不動産所得は不動産又はこれらに準ずる資産の貸付による所得であつて、貸金の利息とは貸借の目的物が金銭であるか否かの差はあるが、資本財を他人に貸付することによつて生ずる所得である点において極めて類似するものである。

最後に事業所得について述べれば、事業所得とは商業、工業、農業等の外命令で定める事業から生ずる所得であつて、その性質を分析すれば、一応何らかの営利乃至利潤追及の目的をもつて業として反覆継続して行う行為から生ずる所得であり、何らかの労務、役務をもつて反覆継続することによつて生ずる所得である点において、非営業貸金の利息とは重要な違いがある。

(二) 右のとおり非営業貸金から生ずる利息による所得は、その性質において利子所得又は不動産所得にもつとも類似するのであるが、そもそも所得税法上の利子所得は課税便宜上の目的もあつてか利子の種類を金融機関に対する預金、信託等に対する利子と、国公社債の利子等に限つており、且つその大部分が源泉徴収されることを予定して立法されているので、私人間の消費貸借契約にもとづく貸付金の利息は予定されていないところである。

従つて非営業貸金に対する利息についての収入時期の取扱は国税庁通達によつても、不動産所得の規定か然らずとするも利子所得のそれを準用すべきこととなると考えられる。

(三) 不動産所得についての収入すべき金額即ち権利の確定する時期は旧通達一九七によれば、支払期の定めがあるものは支払期、支払期の定めのないものは受領時(請求があつたときに支払うべきものについては請求のとき)とされているところである。本件においては、利率の点はさておき、利息を現実に受領していないこと、支払日の約定がなされていないこと、その請求のないことはいずれも当事者間に争いがない。されば本件貸金については、その利息を現実に受領したとき収入すべき金額が確定したものと取扱われるべきこととなることは理の当然である。

(四) 次に利子所得の定めるところを準用するものと解した場合を検討してみるに、

利子所得の収入金の確定時期は旧通達一九五によれば、原則として支払期、無記名の公社債については利子の支払を受けた時とされ、新通達(基本通達三六―二)は旧通達の定めよりはやや詳細であるがおおむね旧通達の趣旨を踏襲していることが認められ、特に本件貸金と元本及び利息の支払期の定めない債権である点で共通する通知預金の利子に対する取扱(同通達三六―二(3))については、「払出しの日」即ち元本も利息も現実に受領した日をもつて収入すべき日であると定められている。

通知預金は預金者が預金後何時でも一定の時期前に予告して払渡をうけることを約してなす預金であり、正に民法五九一条に定める期限の定めなき債権と同じ性格のものであつて、もし被告主張の如く期限の定めなき債権の利息債権は日々発生し、いつでも請求しうる点のみをとらえて、その収入すべき時期についていわゆる発生主義による課税をするのであれば、前記の規定は全く無意味のものである。

加うるに通知預金以外の預金についての右通達の規定をみれば期間の定めのある預金の利子はその期間の満了日、その日を経過した以降の利子は現実に支払を受けた日をもつて収入すべき日とする旨定められており、旧通達の規定と根本的に異なるところはない。

従つて、本件貸金の利息の収入すべき時期について、利子所得に関する取扱を準用したとしてもそれは現実の支払を受けた日が収入すべき時期となるという原告主張の結論には何らの消長を来すものではない。

第三、証拠

一、原告

1. 甲第一、二号証、第三ないし第六号証の各一、二、第七、八号証、第九号証の一、二、第一〇、一一号証、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一、二、第一四及び第一五号証の各一ないし三、第一六ないし第二一号証、第二二号証の一ないし八、第二三号証、第二三号証の一ないし一八、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし三、第二六、二七号証、第二八号証の一、二、第二九号証、第二九号証の一ないし八、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二号証を提出。

2. 証人中島豊三、同古河晴法(第一回)の各証言及び原告本人尋問の結果を援用。

3. 乙第一ないし第三号証の各一、二、第四号証の一ないし三、第五、六号証、第一七、一八号証、第二六号証、第二七号証の一、第三〇号証の一ないし三、第三一号証の一、二の各原本の存在及び成立、第七ないし第一六号証、第二四、二五号証、第二七号証の二、三の各成立は認める。第一九、二〇号証、第二二、二三号証の各原本の存在及び成立ならびに第二一号証、第二八、二九号証の各成立は知らない。

二、被告

1. 乙第一ないし第三号証の各一、二、第四号証の一ないし三、第五ないし第二六号証、第二七号証の一ないし三、第二八、二九号証、第三〇号証の一ないし三、第三一号証の一、二を提出。

2. 証人古河晴法(第二回)の証言を援用。

3. 甲第一、二号証の原本の存在及び成立、第三ないし第五号証の各一、二、第七、八号証、第九号証の二、第一一号証、第一六ないし第一八号証、第二〇号証、第二二号証の一ないし八、第二三号証、第二三号証の一ないし一八、第二九号証、第二九号証の一ないし八の各成立は認める。第一〇号証はタイプ記載部分の成立は認めるがその余の部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、原告主張の請求原因1の事実はすべて当事者間に争いがない。

二、また、同2の事実中、(1)ないし(3)の事実、(4)の事実のうち原告が訴外関東自動車株式会社から利息の支払を受けていないかどうかの点を除くその余の事実もすべて当事者間に争いがなく、そして、原告の関東自動車株式会社に対する貸付金の利息債権に関する雑所得の存否の点を除いては、本件の各課税年度において原告に被告主張の各所得が存したことは原告の明らかに争わないところである。

三、よつて、右雑所得の存否の点について判断する。

(1)  いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし第三号証の各一、二、第三〇号証の一ないし三、第三一号証の一、二、証人古河晴法の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第二八号証、証人中島豊三、同古河晴法(第一、二回)の各証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

原告の訴外関東自動車株式会社に対する貸付金債権の元本としては、

昭和三八年度

長期貸付金 三、一六七万四、四一九円

昭和三九年度

長期貸付金 三、一六七万四、四一九円

短期貸付金

一〇万円(昭和三九年七月三〇日貸付)

四万三、一二〇円(同年一〇月二〇日貸付)

一〇万円(同年一一月七日貸付)

昭和四〇年度

長期貸付金 三、一六七万四、四一九円

(ただし、同年一一月三日一部返済により以後は三、〇三四万一、七六八円)

のほかに、右各年度を通じ新谷泰助名義による長期貸付金三〇〇万円が存した。

したがつて、右各年度中に発生した原告の訴外会社に対する日歩四銭の割合による利息債権は、少くとも、それぞれ被告が右各年度の利息金による原告の雑所得が発生したと主張する金額以上の金額である。

しかるに、原告は少くとも右各年度中は訴外会社から右利息の支払を全くうけなかつた。

なお、乙第二号証の二(第八期決算報告書、財産目録及附属明細書)中の長期借入金の摘要欄に新谷泰助として「300,000」とあるのは、その金額欄記載の金額、乙第一号証の一(第七期決算報告書、財産目録及附属明細書)中の長期借入金の欄の記載及び乙第二八号証の記載に照らし、「3,000,000」の誤記と認められ、また、乙第三号証の二(第九期決算報告書、財産目録及附属明細書)中の長期借入金の摘要欄に、野村政吉として「33,041,419」とあり、新谷泰助として「300,000」とあるのは、その金額欄記載の金額、新谷泰助の金額について乙第二号証の二に前記のような誤記のある点及び乙第二八号証の記載に照らし、それぞれ「30,341,788」及び「3,000,000」の誤記と認められる。そして、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  ところで、所得税法第三六条第一項は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と規定しているのであるから、所得税法は所得の計算につきいわゆる発生主義ないし権利確定主義を採つているのであり、右第三六条第一項にいう「その年において収入すべき金額」とはその年中に収入する権利の確定した金額をいい、右の権利が確定した金額については原則として権利確定の年に所得が発生したものと認定すべきものと解するのが相当である。

けだし、これに反して現実の収入時期を待つて課税するのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いから、右のような徴税政策上の技術的見地から、所得税法は原則として収入すべき権利の確定した時期を捉えて課税することとしたものであると解すべきであるからである。

(3)  そして、右の原則を貸金の利息の場合について考察すると、利息は利率によつて金額を特定することができるのであるから、利息についての弁済期が到来して履行の請求をすることが可能となれば、それだけで収入すべき権利が確定したものということができ、そして、弁済期の定めのない債権は債権発生と同時に弁済期が到来するものと解すべきであり、また、利息は元本利用の対価として発生する法定果実であるから、元本についても利息についても弁済期の定めがない場合には、利息債権は元本の返還がなされるまで日々発生し、発生と同時に弁済期が到来するものといわなければならない。

(4)  従つて、元本についても利息についても弁済期の定めのない本件貸金の利息については、各課税年度分毎にその年度において収入すべき権利が確定し、これに相当する金額の雑所得が原告に発生し課税対象となつたものと解するのが相当である。

(5)  もつとも、国税庁長官の所得税基本通達は雑所得の総収入金額の収入すべき時期は、その所得の性質から収入の態様に応じ、他の所得の収入金額または総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準ずるものとしている(同通達三六-一四)ところ、原告は本件のような非営業貸金の利息は不動産所得の取扱い又は利子所得中の通知預金の利子の取扱いに準ずべきものであり、これに準ずるときは本件利息についての収入すべき時期は受領の日であると主張するが、非営業貸金の利息についての収入すべき時期について不動産所得の取扱い又は利子所得中の通知預金の利子の取扱いに準ずべきものと解するのは相当ではないから、原告の右主張は採用できない。また、基本通達三六-八は、事業所得の総収入金額の収入すべき時期について、金銭の貸付による利息については、原則として、その年に対応するものはその年の末日とするが、ただし継続的な記帳が行われている場合には一定の要件のもとに支払のあつた日とするものとしているが、右は被告主張のような理由によるものと解せられるから、非営業貸金についても同じような例外を認めるのは相当ではないし、しかも、原告が本件貸金について帳簿を設けていないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、結局本件貸金の利息については権利確定主義の原則により、各課税年度分の利息毎にその年度が収入すべき時期にあたるものと解するのが相当である。

(6)  なお又、原告は、企業会計原則が未収収益は原則として期間経過にともなつて計上する必要はないものとしていることを根拠として、権利確定主義による課税を否定するけれども、企業会計原則は企業の健全な経営を目的とする会計処理の方法を定めたものにすぎないから、徴税の原則とは必らずしも一致するものではなく、原告の主張は採用できない。

四、以上認定、判断したところにしたがえば、原告の昭和三八年分ないし昭和四〇年分の雑所得はいずれも被告主張の金額であつて、これと当事者間に争のない原告の他の所得金額、原告の申告納税額等を基礎とした被告の原告に対する右各年分の所得税の本税ならびに無申告加算税の課税処分(ただし審査請求に基く裁決により一部取消にかかるもの)は正当であるから、原告の本訴請求は理由がないものと認めてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今村三郎 裁判官  原孟 裁判官 染川周郎)

別紙第一

昭和38年分

〈省略〉

別紙第二

昭和39年分

〈省略〉

別紙第三

昭和40年分

〈省略〉

別紙第四

昭和38年分

財産目録

〈省略〉

附属明細書-未払費用

〈省略〉

昭和39年分

財産目録

〈省略〉

附属明細書-未払費用

〈省略〉

第八期総勘定元帳のうち支払利子割引料勘定

〈省略〉

第八期総勘定元帳のうち短期借入金勘定

〈省略〉

昭和40年分

財産目録

〈省略〉

附属明細書-未払費用

〈省略〉

附属明細書-支払利息割引料

〈省略〉

第九期総勘定元帳のうち支払利子割引料勘定

〈省略〉

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